恋の駆け引き

                              今井恒雄(著)

  【八】エン公、今、一番やりたいことって、なんだい。
  【エン公】やりたいこと……そりゃ、可愛い女の子と付き合って、青春を謳歌
      したいですね。
  【八】なーんだ、そんなことか。
  【エン公】そんなことって……ボクにとっては、重要なことですが。
  【八】そりゃそうだな。でも、エン公みたいに内気な人間には、女の子に声を
      掛けるなんて出来ないんじゃないのかい。
  【エン公】そうなんです。それに、ボクは顔だって良くないし、スタイルだっ
      て、この通り冴えないし……だから、自信がなくって。八兄さん、どうし
      たら女の子にモテるのか、教えて下さい。
  【八】エン公、モテる・モテないは、顔やスタイルじゃないぜ。駆け引きだぜ。
  【エン公】駆け引き?  それって、どういうことですか。
  【八】エン公、気に入った女の子にモテようとして、懸命に尽くしてるんじゃ
      ないのかい?
  【エン公】そうなんですが……いつも失敗ばかりで。
  【八】それじゃ、だめだ。こうしてみろ。まず、電車の中で、わざと女にぶつ
      かって「あ、すみません」って。ま、これは、誰でもやる手だが。
  【エン公】誰でも?
  【八】イッパシの女なら経験が豊富だからな、相手がわざとぶつかって来たこ
      とは、お見通しよ。次は、自分に話し掛けてくるって思ってるぜ。
  【エン公】ボク、信じられない……。
  【八】よく聞けよ、ここが重要なところだからな。この時、肩スカシを食わす
      んだ。つまり、知らん顔をするんだ。あんたに興味なんかありませんって
      態度をとれ。
  【エン公】それじゃ、そこで、終わりに……。
  【八】これが恋の駆け引きだ。女は相手に無視されて心が騒ぐ。「あたしに声
      を掛けないなんて……どうして?」って、気になりだすんだ。
  【エン公】本当ですか?
  【八】知らん顔をして電車から降りようとすると、女の方から声を掛けてくる
      ぜ。「あのー、ハンカチを落としましたよ」なんて。勿論、女のハンカチ
      だがね。
  【エン公】そんなことって……。
  【八】いいか、エン公、恋の駆け引きを覚えろよ。女の心理を見抜くんだ。
  【エン公】女の心理なんて、ボク……そんなこと……。
  【八】昔から言うだろ「追えば逃げ・逃げれば追うのが男女の仲」って。追っ
      かけるから、逃げるんだ。
  【エン公】そーか、それで八兄さん、いつも振られるんですね!